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最高裁判所第三小法廷 昭和46年(オ)1057号 判決 1976年3月30日

上告人

成田精吉

上告人

下山正二

右両名訴訟代理人

中林裕一

外一名

被上告人

一戸操

右補助参加人

伊藤三男雄

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人中林裕一、同安田忠の上告理由第一点について

記録によれば、被上告人は、本訴により、補助参加人の保有し運転する自動車と上告人成田精吉の保有し同下山正二の運転する自動車が交差点で衝突した反動により傷害を負つたことに基づき、補助参加人及び上告人らを共同被告として損害賠償を請求したが、第一審においては補助参加人に対する請求はほぼ全部認容され、上告人らに対する請求は棄却されたところ、補助参加人が、自己に対する第一審判決については控訴しなかつたが、上告人らもまた右事故につき損害賠償責任を免れないとして、被上告人のため補助参加を申し立てると同時に、原審に対し被上告人を控訴人とする控訴を提起したことが認められる。右の場合においては、被上告人と上告人らの間の本件訴訟の結果いかんによつて補助参加人の被上告人に対する損害賠償責任に消長をきたすものではないが、本件訴訟において上告人らの被上告人に対する損害賠償責任が認められれば、補助参加人は被上告人に対し上告人らと各自損害を賠償すれば足りることとなり、みずから損害を賠償したときは上告人らに対し求償し得ることになるのであるから、補助参加人は、本件訴訟において、被上告人の敗訴を防ぎ、上告人らの被上告人に対する損害賠償責任が認められる結果を得ることに利益を有するということができ、そのために自己に対する第一審判決について控訴しないときは第一審において相手方であつた被上告人に補助参加することも許されると解するのが、相当である。これと同旨の見解のもとに、補助参加人の補助参加の申立及び控訴の提起を適法とした原審の判断は正当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第二点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切でない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(髙辻正己 天野武一 江里口清雄 服部髙顯)

上告代理人中林裕一、同安田忠の上告理由

第一点 本件における補助参加については参加の利益がないので補助参加の要件を欠き、よつて被上告人補助参加人の提起した原審における控訴は不適法で却下を免がれないはずである。

然るに原判決は、その理由において「およそ補助参加をなし得るためには他人間の訴訟結果につき利害関係を有することが必要であるが、右の訴訟の結果についての利害関係(参加の利益)を有するとは当該訴訟の訴訟物たる権利関係の存否が参加人の私法上又は公法上の権利関係ないし地位に何らかの法律上の影響を及ぼす場合を指すものと解される。」との前提に立つて「もし被控訴人下山に過失が認められるならば補助参加人と被控訴人らは本件事故によつて控訴人が被つた損害を各自賠償する責に任ずべき関係にあるから補助参加人が控訴人に対し控訴人が本件事故によつて被つた損害を賠償した場合には補助参加人は被控訴人らに対し、補助参加人と被控訴人下山との過失の割合に従つて定められるべき負担部分について求償権を取得するものと言わなければならない。そして控訴人と被控訴人ら間の本件訴訟が控訴人の勝訴に帰し、被控訴人らにも賠償責任のあることが確定すれば右求償権の行使が容易になり、反対に控訴人の敗訴に終り、被控訴人らに賠償責任がないことが確定すれば、この行使が困難になり場合によつては補助参加人において被控訴人らに対し、本来請求し得べかりし求償権を行使し得なくなるおそれがあると認められるから本件訴訟の結果は補助参加人が将来、控訴人に損害を賠償した場合に被控訴人らに対し求償権を行使するにあたつて法律上の影響を及ぼすものということが出来、従つて本件補助参加についてはいわゆる参加の利益があるものというべきである」と判断し、上告人らの主張を排斥した。

ところで、

一、原審の確定した事実によれば被上告人は本件交通事故により損害を受けたとして被上告人補助参加人および上告人らの三名を被告として各自金一五四万一、九五三円の支払いを求める訴を提起したところ、第一審裁判所は上告人らに対する請求を棄却し、被上告人補助参加人に対しては、ほぼ請求金額を全部認容する判決を下した。そして被上告人と被上告人補助参加人間の該判決はそのまま確定した。

しかし被上告人補助参加人は本件交通事故は上告人下山にも徐行義務違反の過失があるから上告人の下山は民法第七〇九条により、上告人成田は自賠法第三条によつて、それぞれ賠償責任を負うものであり、被上告人補助参加人において被上告人に対し、その賠償金を支払つた場合には上告人らに対し求償をし得る立場にあり、よつて被上告人補助参加人は被上告人と上告人ら間の訴訟の結果につき利害関係を有するので被上告人を補助するため参加の申出をすると共に原審に控訴を提起したものであるというにある。

果して然らば本件補助参加は被上告人に対する関係では既に自己の敗訴判決が確定し、その責任の有無につき争う予地がないのに抱らず専ら上告人下山の過失の有無を媒介として上告人らと参加人間の将来における求償関係を保全するためにあるということが出来る。

このような被参加人に対する損害賠償責任には関係なく相手方との将来における求償関係のみを目的とする補助参加は参加の利益があると言うことが出来るのであろうか検討を加えたい。

二、そもそも補助参加の利益は一方当事者の敗訴によつて第三者が一定の請求を受け、もしくは訴えられる蓋然性があり、第三者を当事者とする第二の訴訟で当該第一の訴訟の判決理由中の判断が参考にされて第三者に不利益な判断がなされる蓋然性があることに要約されると思料されるが本件においては既に被上告人と被上告人補助参加人間の訴訟が参加人敗訴に確定して将来被上告人より被上告人補助参加人に対し、提起される訴訟は存在せず、また上告人下山の過失の有無が本件訴訟において判断されるとしても被上告人対補助参加人間の右確定判決には何ら影響を及ぼさない。(上告人と被上告人間の訴訟においては上告人と被上告人補助参加人との間の責任の割合が判断されることはない)

従来の裁判例を見ると参加利益は一般に被参加人が敗訴すれば参加人が被参加人又は相手方から求償請求又は損害賠償を受ける関係にある場合、又は被参加人が勝訴すれば参加人は訴求されることがなくなる関係にある場合に限られて許容されているように思われる。

少くとも被参加人が勝訴しても参加人が被参加人から訴求される場合は勿論、相手方との過失の割合による負担部分の軽減を求めるためにのみの参加は、その許容範囲を超えていると思われる。

よつて本件においては上告人下山が参加人の過失に加つたか否かは既に判決確定している参加人の責任に何らの消長を及ぼすものではない。

即ち、仮りに上告人下山の過失が加わつたとしても参加人及び上告人らの被上告人に対する関係は損害の全部責任であり、被上告人が勝訴したところで参加人の責任には何らの関係もないのであるから従来の裁判例に照しても参加利益はないと思われる。

三、近時参加人の利害関係が頻発する交通事故を通じ、更に複雑微妙な様相を呈するに至つたことから過失の割合による負担部分請求権を保全する意味において共同訴訟人の一方が他の一方に対する訴訟告知も見受けられる。

しかしながら、これによる参加はあくまでも共同訴訟人相互の共同戦線のため一方が他の一方に参加を求めて許容されている事例であつていまだ専ら共同訴訟人相互の過失の存否、割合の関係を目的として訴訟に参加を認めた事例はないように思われる。

若し仮りに専ら右のような関係において参加を認めるとするならば参加人と被参加人は相互の過失存否及び割合を各対立して主張し、かつ相手方とは損害額を争つたり過失相殺の主張についてのみ共同戦線を張るという極めて矛盾した結果となり徒らに補助参加に名を籍り、当事者の地位を不安定たらしめ訴訟を遅延せしめる結果となつてこのような参加は民訴法第六五条の訴訟参加の趣旨に反する。

四、本件は上告人ら代理人が冒頭に述べたように専ら上告人下山と参加人の過失の割合とこれによる負担部分の請求を求めんがために参加人によつて提起された控訴である。

かかる控訴提起は叙上のいずれの理論及び事例から見ても不適切で参加の利益を欠くものと思料され、よつて却下されて然るべきである。

然るに原審はこれを許容した点において法律の解釈適用を誤つた重大な違法あるものというべくとうてい破棄を免れない。

第二点 <省略>

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